大判例

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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)14号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告が主張する審決取消事由の存否について検討する。

1 補正後の本願発明の課題について

成立に争いのない甲第五号証によれば、第一引用例は、それに添付された証明書によれば、ロイアレンの販売を促進するために作成されて本願発明出願前日本国内で頒布されたパンフレツトであることが認められるので、そこに開示されているロイアレンと他のゴムとのブレンドに関する配合例は、原則的にはロイアレンを販売する会社としての一応の推奨配合例とみるのが相当である。

そして、その第三五頁、第三六頁には、ロイアレンと他のゴムのブレンド応用例として、ホワイトサイドウオールへの適用例が記載されており、その配合処方には、試料三九として、RSS#1 八〇部、ロイアレン301、二〇部、チタン白三五部、亜鉛華三五部、ステアリン酸二部、プロセス油五部、ワツクス五部、soxinol―CZ 〇・三五部、硫黄三・五部よりなるホワイトサイドウオール用ゴム組成物が開示されている。

そして、ロイアレン301がエチレン―プロピレンタ―ポリマーであり、RSS#1が天然ゴムであり、soxinol―CZがN―シクロヘキシル―2―ベンゾチアゾール・スルフエンアミドでゴムの加硫促進剤であることは、陳述された原告の昭和五五年五月六日付第一回準備書面第二、審決の認否の記載など弁論の全趣旨によれば、当事者間に争いがないところである。

そうすると、この試料三九は、天然ゴム八〇部、EPT二〇部、チタン白三五部、亜鉛華三五部、ステアリン酸二部、プロセス油五部、ワツクス五部、スルフエンアミド系加硫促進剤〇・三五部、硫黄三・五部よりなるホワイトサイドウオール用組成物と読みかえることができ、これは、成立に争いのない甲第二号証、第三号証によれば、スルフエナミド促進剤と硫黄の使用量に関する相違点のほかは、本願発明と同一の組成物であつて、この組成物は、第一引用例(甲第五号証)第三五頁、第三六頁記載のデータによれば、他の諸物性をほとんど損うことなく、EPTの持つ、耐オゾン性、耐候性という優れた性質をとりこんだものであることが認められる。

その上、甲第五号証によれば、第一引用例においてEPTを使用したホワイトサイドウオール用組成物としての唯一の配合例であり、従つてそこにおける販売会社の推奨する配合例とみられるから、この組成物からなるホワイトサイドウオールはタイヤカーカス部との接着においても十分実用に耐える接着強度を持つものと認められる。そしてタイヤカーカス部が普通ゴムでできていることも極めてありふれた技術常識である(前掲、甲第二号証第二頁第三欄第一行ないし第三行によれば、普通ゴムはプタジエン―スチレンコポリマー、天然ゴム、シス―1・4―ポリブタジエンおよびシス―1・4ポリイソプレンのごとき普通のゴムをいう。)。

以上の認定事項を総合すると、結局原告が主張する本願発明におけるEPT調合物と普通ゴムとの接着性改善に関する(イ)、(ロ)、(ハ)の課題は、第一引用例における天然ゴム、EPT、各種添加剤およびスルフエナミド加硫促進剤および硫黄よりなるサイドウオール用組成物と普通ゴムとの接着性の問題として開示され、大局的には、既に解決していたというべきである。

なお、原告は、第一引用例が本願発明の課題を解決した配合例でない第一の理由として、(a)試料三七はロイアレン301の使用量が四〇部であり、到底接着性が改善されたものとはいえない点、(b)試料三八はロイアレン301が使用されていないのにsoxinol―CZが使用されている点があるとする。

そこで、まず(a)の点についてみると、前掲甲第二号証、第三号証、第五号証によれば、試料三七は、本願発明と同一の技術分野の自動車カバーストリツプの項に属するものであるが、これを評価するためには試料三五と三六とを一体にして検討しなければならない。けだし、第一引用例の自動車カバーストリツプの項は試料三五、三六、三七よりなりたち、試料三五が普通ゴム一〇〇部(RSS#1 五〇部とネオプレンW五〇部との合計)のみでロイアレンを使用しないのに対し、試料三六は普通ゴム八〇部(RSS#1五〇部とネオプレンW三〇部との合計)とロイアレン301二部を、試料三七は普通ゴム(RSS#1 六〇部)とロイアレン301四〇部を、それぞれ用いた比較対象的配合例群だからである。

そして、その自動車カバーストリツプの項における、いわば中庸の配合例は試料三六であり、試料三五はロイアレン301を使用しない場合、試料三七はロイアレン301を比較的多量に使用した場合を例示したものというべきである。このことは、第一引用例における自動車タイヤ、チユーブ、カバーストリツプの応用例各項にわたる全配合例でのロイアレン301の配合量をみるとき、全ゴム分一〇〇部中、ロイアレン301の使用量は、一〇部、二〇部、三〇部、四〇部の四種であり、そのうちロイアレン301を四〇部用いたのは試料三七のみであることからも明らかである。そして、その自動車カバーストリツプの項におけるデータは、ロイアレン301の使用量を〇、二〇部、四〇部と変えた場合の物性の変化の程度を示しており、ロイアレン301の配合割合が増すにつれて、ロイアレン301の性質が一層強くあらわれることがみられる。

従つて、試料三七が接着性において試料三六に較べて劣るであろうことは容易に予測できることであるから、試料三七が接着性の点で原告主張のように不満足であつたとしても、前記のような課題解決に関する認定を左右するものではない。

次に(b)の点についてみると、前掲甲第二号証、第三号証、第五号証によれば、試料三八は、本願発明と同一技術分野のホワイトサイドウオールに関するものであつて、試料三九がロイアレン301をブレンドする場合の配合例であるのに対して、これはロイアレン301を使用しない場合の比較例であるから、ゴム成分以外の配合成分とその割合が同一なのは当然であつて、これをもつて、前記のような課題解決に関する認定を左右するものではない。

さらに原告は、第一引用例が本願発明における接着性の課題を解決した配合例でない第二の理由として、その試料三九の配合例における硫黄使用量は三・五〇部であり、本願発明の硫黄使用量に比較して異常に多量であつて、このように多量の場合には普通ゴムとの接着性に劣ると主張する。

しかしながら、前記認定のとおり、試料三九は販売会社によつてホワイトサイドウオール用組成物として推奨された一つの配合例であり、加硫促進剤と硫黄のそれぞれの配合量以外はすべて本願発明と同一であるから、前掲甲第五号証および成立に争いのない甲第六号証、第八号証によつて認められる技術常識によれば、この配合例を基本にして、加硫促進剤と硫黄のそれぞれの使用量について、ゴムに対する通常の使用量の範囲で変更し、その最適値を求めることは、当業者として容易なことであり、加硫促進剤と硫黄とのそれぞれの使用量の差により、接着性やその他の物性に差異を生じても、それは効果の程度の差異にとどまり、前記のような課題解決に関する認定を左右するものではない。

なお前記争いない事実および成立に争いのない甲第六号証によれば、第二引用例は加硫促進剤と硫黄からなる加硫系における通常の使用量を例示的に示すために審決が引用したものであり、本願発明の課題を開示していなくとも、前記認定を左右するものではない。

2 加硫促進剤と硫黄との配合量に関する対比判断について前掲甲第六号証、第八号証によれば、第二引用例および第三引用例はゴムの加硫に使用される加硫促進剤と硫黄の使用量に関する技術常識の範囲を示しているものであつて、前記争いない事実によれば、審決は第一引用例の試料三九に示された配合例において、加硫促進剤と硫黄との使用量を種々変更してタイヤのサイドウオールとしての諸物性を確認することは容易であるとする当業者の技術常識の範囲を示す例として第二引用例、第三引用例をあげているに過ぎず、原告主張のようにそこにEPT調合物と普通ゴムとの接着性についての問題点の開示がなくとも、前項認定のように第一引用例に本願発明における原告主張(イ)、(ロ)、(ハ)の課題が開示されている以上、これに第二引用例、第三引用例に示された技術常識を適用して、本願発明を推考することが当業者にとり容易であるとした判断に何ら誤りはない。

三 そうすると、補正後の本願発明が第一引用例の発明に基づいて当業者が容易に発明できるものとして補正を却下した決定は妥当であり、補正前のとおり要旨認定をした審決の判断に誤りはない。そうして補正前の本願発明に対する判断が適法であることは原告も争わないところである。従つて原告の主張はいずれも理由がなく、本件審決を違法としてその取消を求める本訴請求は、失当として棄却すべきものである。

〔編註〕 本願発明に関する事項は左のとおりである。

一 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和四三年二月二八日、名称を「硫黄可硬化組成物の製造法」(後に「空気タイヤ」と訂正)とする発明(以下、「本願発明」という。)について、一九六七年二月二八日アメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して特許出願(昭和五三年特許願第一二三一七号)をし、昭和四七年四月二五日特公昭四七―一三八五一号として出願公告されたが、異議申立があり、昭和四八年六月六日の手続補正書により特許請求の範囲を補正したが、昭和五〇年一〇月三〇日補正却下の決定と共に拒絶査定がなされたので、補正却下の決定理由の不服と共に昭和五一年四月一二日審判請求をし、昭和五一年審判第三六〇六号事件として審理されたが、昭和五四年九月一四日「本件審判の請求は成り立たない」との審決があり、職権で出訴期間として三か月を附加した上、その謄本は同年九月二九日原告に送達された。

二 本願発明の要旨

本願発明の公告された発明の要旨は

「硫黄加硫性重合体ブレンドの使用を含む組成物からなるタイヤ側壁および(または)カバーストリツプを有する空気タイヤにおいて、重合体ブレンドが、(A)エチレン/プロピレンテルポリマー一五~三五重量部、(B)天然ゴム、ポリクロロプレン、ポリイソプレン、ポリブタジエン、および少なくとも五〇重量%の結合ブタジエンを含有するブタジエンとスチレンとのゴム状共重合体からなる群から選ばれた少なくとも一種のゴム六五~八五重量部、(C)少なくとも一種のスルフエナミド促進剤〇・七五~一・七五重量部、および(D)硫黄〇・五~一・五重量部であつて、(C)と(D)の最大量が約二・七五重量部であるものを均一な混合物が得られるまで混合することによつて製造されたブレンドであることを特徴とする究気タイヤ。」であり、補正却下された特許請求の範囲は公告された右特許請求の範囲中から「ポリイソプレン」を削除したものである。

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